愛国百人一首

選定の目的
 現在我々の抱いている愛国の心を、 百人一首などにより良く知られている、
 和歌の形式で伝えようとするもので、和歌を通しての指導精神を示すことを目的とする。

選定にあたっての標準
 1、 天皇と国とは一体であるとし、 天皇の民として生まれたことを喜ぶ歌も愛国とすること。
 2、 和歌の形式は短歌に限ること。
 3、 万葉集時代から明治維新前までの物故者の作であること。 天皇、 皇族の歌は遠慮すること。
 4、 愛国の範囲の拡大。 母性愛、 夫婦愛を歌ったものでも秀歌であるなら含めること。
 5、 直接愛国の精神を詠んだものに限らずやや間接的な表現でも選んだと言うこと。
 6、 一首の歌として明朗に、 又積極性を帯びている作を選んだということ。
 7、 歴史上有名な人の作を積極的に選ぶことはせず、 あくまで和歌を主体に考えるということ。

選定の実際
 1、 同じ作者の似たような複数の歌が流通している場合、 広く知られている方をとった。
 2、 作者の名前は、 できるだけ古来の読み方にし、 ふりがなのない場合は選定委員会でつけた。
 3、 順序は万葉集及び吉野朝までは適宜に。 他は没年の順とした。

愛国百人一首
  1、 柿本人麻呂  大君は神にしませば天雲の雷の上にいほりせるかも
  2、 長奥麻呂   大宮の内まで聞こゆ網引すと網子ととどのふる海人の呼び声
  3、 大伴旅人   やすみししわが大君の食國は大和も此処も同じとぞ念ふ
  4、 高橋蟲麻呂  千萬の軍なりとも言挙せず取りて来ぬべき男とぞ思ふ
  5、 山上憶良   をのこやも空しかるべき萬代に語りつぐべき名は立てずして
  6、 笠金村    ますらをの弓末振り起し射つる矢を後見む人は語りつぐがね
  7、 山部赤人   あしきひの山にも野にも狩人さつ矢手鋏みみだれたり見ゆ
  8、 遣唐使使人母 旅人の宿せむ野に霜降らば吾が子羽ぐくめ天の鶴群
  9、 阿部女郎   わが背子はものな思ほし思ほし事あらば火にも水にも吾なけなくに
  10、 海犬養岡麿  み民吾生けるしるしあり天地の榮ゆる時にあへらく思へば
 11、 雪宅麻呂   大君の命かしこみ大船の行きのまにまに宿りするかも
 12、 小野老    あをによし奈良の京は咲く花のにほふがごとく今さかりなり
 13、 橘諸兄    降る雪の白髪までに大君に仕えまつれば貴くもあるか
 14、 紀清人    天の下すでに覆ひて降る雪の光を見れば貴くもあるか
 15、 葛井諸會   新しき年のはじめに豊の年しるしとならし雪ふれるは
 16、 多治比鷹主  唐國にいきき足らはして帰り来むますら武雄に御酒たてまつる
 17、 大伴家持   すめろぎの御代栄えむと東なるみちのく山にくがね花咲く
 18、 丈部人麻呂  大君の命かしこみ磯に触り海原渡る父母をおきて
 19、 坂田部麻呂  眞木柱ほめて造れる殿のごといませ母刀自面変りせず
 20、 大舎人部千文 霰降り鹿島の神を祈りつつ皇御軍に吾は来にしを
 21、 今奉部與會布 今日よりはかへりみなくて大君の御楯と出で立つ吾は
 22、 大田部荒耳  天地の神を祈りて祈りてさつ矢ぬき筑紫の島をさして行く吾は
 23、 神人部子忍男 ちはやぶる神の御坂に幣奉り齋ふいのちは母父がため
 24、 尾張濱主   翁とてわびやは居らむ草も木も栄ゆる時に出でて舞ひてむ
 25、 菅原道眞   海ならずたたえる水の底までも清き心は月ぞ照らさむ
 26、 大中臣輔親  山のごと坂田の稲を抜き積みて君が千歳の初穂にぞ春く
 27、 成尋阿闍利母 もろこしも天の下にぞ有りと聞く照る日の本を忘れざらなむ
 28、 源経信    君が代はつきじとぞ思ふ神風やみもすそ川のすまむ限は
 29、 源俊頼    君が代は松の上葉におく露のつもりて四方の海となるまで
 30、 藤原範兼   君が代にあへるは誰も嬉しきを花は色にも出でにけるかな
 31、 源頼政    み山木のその梢とも見えざりし桜は花にあらはれにけり
 32、 西行法師   宮柱したつ岩根にしき立ててつゆも雲らぬ日の御影かな
 33、 藤原俊成   君が代は千代ともささじ天の戸や出づる月日のかぎりなければ
 34、 藤原良経   昔たれかかかる桜の花を植えて吉野を春の山となしけむ
 35、 源実朝    山はさけ海はあせなむ世なりとも君にふた心わがあらめやも
 36、 藤原定家   曇なきみどりの空を仰ぎても君が八千代をまづ祈るかな
 37、 宏覚禅師   末の世の末の末まで我が國はよろづの國にすぐれたる國
 38、 中臣祐春   西の海よせくる波も心せよ神の守れるやまと島根ぞ
 39、 藤原為氏   勅として祈るしるしの神風に寄せくる浪はかつ碎けつつ
 40、 源致雄    命をばかろきになして武士の道よりおもき道あらめやは
 41、 藤原為定   限なき恵を四方にしき島の大和島根は今さかゆなり
 42、 藤原師賢   思ひかね入りにし山を立ち出でて迷ふうき世もただ君の為
 43、 津守國貴   君をいのる道にいそげば神垣にはや時つげて鶏も鳴くなり
 44、 菊池武時   もののふの上矢かぶら一筋に思ふ心は神ぞ知るらむ
 45、 楠木正行   かへらじとかねて思へば梓弓なき数に入る名をぞとどむる
 46、 北畠親房   鶏の音になほぞおどろく仕ふとて心のたゆむひまはなけれど
 47、 森迫親正   いのちより名こそ惜しけれ武士の道にかふべき道しなければ
 48、 三条西実隆  あふぎ来てもろこし人も住みつくやげに日の本の光なるらむ
 49、 新納忠元   あぢきなやもろこしまでもおくれじと思ひしことは昔なりけり
 50、 下河邊長流  富士の嶺に登りて見れば登りて見れば天地はまだいくほどもわかれざりれり
 51、 徳川光圀   行く川の清き流れにおのづから心の水もかよひてぞすむ
 52、 荷田春満   ふみわけよ日本にはあらぬ日本にはあらぬ唐鳥の跡をみるのみ人の道かは
 53、 賀茂真淵   大御田の水泡も泡もかきたれてとるや早苗は我が君の為
 54、 田安宗武   もののふの兜に立つる鍬形のながめ柏は見れどあかずけり
 55、 楫取魚彦   すめ神の天降りましける日向なる高千穂の嶽やまづ霞むらむ
 56、 橘枝直    天の原てる日にちかき富士の嶺に今も神代の雪は残れり
 57、 林子平    千代ふりし書もしるさず海の國まもりの道は我ひとり見き
 58、 高山彦九郎  我を我としろしめすかやすべらぎの玉のみ声のかかる嬉しさ
 59、 小澤蘆菴   あし原やこの國ぶりの言の葉に栄ゆる御代の声ぞ聞ゆる
 60、 本居宣長   しきしまのやまと心を人とはば朝日ににほふ山ざくら花
 61、 荒木田久老  初春の初日かがよふ神國の神のみかげをあふげ諸
 62、 橘千蔭    八束穂の瑞穂の上に千五百秋國の秀見せて照れる月かも
 63、 上田秋成   香具山の尾上に立ちて見渡せば大和國原早苗とるなり
 64、 蒲生君平   遠つ祖の身によろひたる緋縅の面影浮かぶ木々のもみぢ葉
 65、 栗田土滿   かけまくもあやに畏きすめらぎの神のみ民とあるが楽しさ
 66、 賀茂季鷹   大日本神代ゆかけて伝えつる雄々しき道ぞたゆみあらすな
 67、 平田篤胤   青海原潮の八百重の八十國につぎてひろめよ此の正道を
 68、 香川景樹   一方に靡きひろひて花すすき風吹く時ぞみだれざりける
 69、 大倉鷲夫   安見ししわが大君のしきませる御國ゆたかに春は来にけり
 70、 藤田東湖   かきくらすあめりか人に天つ日のかがやく邦のてぶり見せばや
 71、 足代弘訓   わが國はいともたふとし天地の神の祭をまつりごとにて
 72、 加納諸平   君がため花と散りにしますらをに見せばやと思ふ御代の春かな
 73、 鹿持雅澄   大君の宮敷ましし橿原のうねびの山の古おもほゆ
 74、 僧月照    大君のためには何か惜しからむ薩摩のせとに身は沈むとも
 75、 石川依平   大君の御贄のまけと魚すらも神代よりこそ仕へきにけれ
 76、 梅田雲濱   君が代を思ふ心のひとすぢに吾が身ありとはおもはざりけり
 77、 吉田松陰   身はたとひ武蔵の野邊に朽ちぬとも留めおかまし日本魂
 78、 有村次左衛門 岩が根も碎からざらめや武士の國の為にと思ひ切る太刀
 79、 高橋多一郎  鹿島なるふつの霊の御剣をこころに磨ぎて行くはこの旅
 80、 佐久良東雄  天皇に仕へまつれと我を生みし我がたらちねぞ尊かりける
 81、 徳川齋昭   天ざかる蝦夷をわが住む家として並ぶ千島のまもりともがな
 82、 有馬新七   朝廷邊に死ぬべきいのちながらへて帰る旅路の憤ろしも
 83、 田中河内介  大君の御旗の下に死してこそ人と生れし甲斐はありけれ
 84、 児島草臣   しづたまき数ならぬ身も時を得て天皇がみ為に死なむとぞ思ふ
 85、 松本奎堂   君がため命死にきと世の人に語り継ぎてよ峰の松風
 86、 鈴木重胤   天皇の御楯となりて死なむ身の心は常に楽しくありけり
 87、 吉村乕太郎  曇なき月を見るにも思ふかな明日はかばねの上に照るやと
 88、 伴林光平   君が代はいはほと共に動かねば碎けてかへれ沖つしら波
 
89、 渋谷伊與作  ますらをが思ひこめにし一筋は七生かふとも何たわむべき
 90、 佐久間象山  みちのくのそとなる蝦夷のそとを漕ぐ舟より遠くものをこそ思へ
 91、 久坂玄瑞   執り佩ける太刀の光はもののふの常に見れどもいやめずらしき
 92、 津田愛之助  大君の御楯となりて捨つる身と思へば軽き我が命かな
 93、 平野國臣   青雲のむかふす極すめろぎの御稜威かがやく御代になしてむ
 94、 真木和泉   大山の峰の岩根に埋めにけりわが年月の日本だましひ
 95、 武田耕雲斎  片敷きて寝ぬる鎧の袖の上に思ひぞつもる越の白雪
 96、 平賀元義   武夫のたけきかがみと天の原あふぎ尊丈夫のとも
 97、 高杉晋作   後れても後れてもまた君たちに誓ひしことをわれ忘れめや
 98、 野村望東尼  武士のやまと心をより合はせただひとすぢの大綱にせよ
 99、 大隈言道   男山今日の行幸の畏きも命あればぞをろがみにける
100、 橘曙覧    春にあけてまづみる書も天地のはじめの時と読み出づるかな